キス

小説

あけまして おめでとうございます。ついに2021年が始まりました。コロナの感染が高まり大変な年の初めになりました。できるだけ早くコロナが沈静化して、みんなが健康で不安のない日々をおくれることをお祈りいたします。今回は、そのコロナに関するお話しを書きました。

今回の音楽は、フランソワーズ アルディー (Françoise Hardy)「サヨナラを教えて」(Comment Te Dire Adieu)。オリジナルは「It Hurts to Say Goodbye」というアメリカの曲を1968年にカバーしたもののようです。小説と合うかどうかは、わかりませんが、なんとなく雰囲気が近いように感じました。

それでは、「キス」お楽しみください。

巻末にある患者さん向け大きな字の読み物もご活用ください


キス
フランソワーズ アルディー (Françoise Hardy) 「サヨナラを教えて」(Comment Te Dire Adieu)
さよならを教えて  フランソワーズ・アルディー

2020年1月23日

中国湖北省の武漢市政府は、市内を中心に広がる新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大を抑えるため、市外に出る航空便や鉄道のほか、市内全域のバスや地下鉄などの公共交通機関の運行を停止する措置を開始した。コロナによる都市封鎖である。



2020年 4月

「貴子、なんか食べる物ある?」

「ああ、もうこんな時間か、お昼作るからちょっと待って」

「1時から、また会議だから早めにお願い!」

「テレワークって会議ばっかりね。画面消して、食べながら会議でたりとかできないの?」

「そうもいかないよ。とりあえず、モニター越しとはいえ、ちゃんとした会議だからね。」

「じゃ、時間ないなら今日はカップヌードルでいい?」

「ああ、いいよ」

「テレワークが始まってから、毎日、朝、昼、晩、夜食と、ご飯を作ってるから疲れちゃった。あなたも、ずっと家にいるし、、」

「家にいたほうがいいでしょ。浮気の心配もないし」

「それはそうだけど、なんか休まる時がないのよね。そういえば、 5月の連休はどうするの?旅行行けそう?」

「休みはとれるけど、どうする?」

「そうね、旅行は行きたいけど、コロナ怖いもんね。テレビ見てもコロナのことばかりで、うんざり」

「そういえば、マスク買えた? マスクしないとお店行きにくくなってるでしょ」

「何軒もドラッグストア回ったけど、ほとんど無くて、ほんの少しだけあまってたのがあって買ってきた」

「外行くとき、いつもマスクするなんて嫌だなー。5月はキャンプでも行こうか。山の方はコロナないだろうし」

「キャンプか、いいわね」

「じゃ、そうしよう。どこのキャンプ場がいいか見とくよ」

「うん。あんまり遠くないとこにしてね」

「ああ、じゃ、カップヌードル持ってくよ」

「部屋で食べるの?」

「ああ、ちょっと資料も見ておきたいし」

「その会議どのくらいで終わるの?」

「一時間くらいかな」

「そのあとも会議?」

「夕方にもう一つ」

「それじゃ、会議終わったら時間作れる?」

「いいけど、何か手伝うことあるの?」

「今日いい日なの」

「え?」

「子供」

「子供?」

「わかるでしょ。」

「え、ああ、昼間から」

「昼間の時間がいいみたい」

「そうなんだ、わかった」

「寝室で本読んでるから会議終わったら来てね」

「うん。わかった」



2020年 12月

一旦鎮静化しかけたコロナが、秋から冬にかけて増え続け、死亡率も高まり続けた。街は歩く人はマスクをつけ、飲食店は営業時間の短縮を余儀なくされ、政府は、海外すべての国からの入国を禁止した。ただ、ビジネスで入国する人には入国を許すなど、中途半端な指示が多く、Go to Travelの中止もあいまって、政府の対応の遅れに人々のイライラが高まっていった。

「大和、寝た?」

「うん。今寝た」

「また、夜泣くのかな」

「数時間おきに泣いてるわよ。あなた、いったん寝たら全く起きないから、わからないでしょ」

「いや、泣くたびになんとなく起きてるような気がするけど」

「そういうの夢うつつっていうのよ。起きておっぱいあげるの大変なんだから」

「大和がちょっとうらやましいなあ」

「何言ってるの」

「しかし、大和も大変な時に生まれたもんだね。また、コロナ感染者増えたみたいだよ」

「お正月の用意しなきゃいけないけど、買い物行くの、なんかこわいのよ。小さな子にはうつらないっていうけど。すごく心配」

「なんか買うものあったら、全部ネットで買っちゃおうよ。大和にうつったら大変だし」

「そうね。病院にいる時は安心だったけど、家だと気になっちゃうわね」

「病院に見舞いもできなかったし、なんか自分の子供が生まれたっていう実感がないよ。病院行って、手握ってスーハーするっていうイメージがあったから、家でボーっとしている間に子供ができて運ばれてきたって感じ」

「確かに。お腹痛いのに、あなたはいないし、不安だったな。」

「世の中、入院してる人は、大変な人が多いんだろうな。会いたい人に会えないまま病院暮らしで死んでいく人って、今すごく多いんじゃない。現代の楢山節考だな」

「楢山節考って何?」

「信州では、年老いた親を、ある年齢になったら姨捨山っていう山に連れていって置いてきちゃうっていう伝説をもとにした映画。病院や介護施設が現代の姨捨山って感じがする」

「そうなんだ。こわい伝説ね。これから会いたいけど、会えないっていう事が多くなってきてるかもね」

「この先、どうなっちゃうんだろ。」

「ほんと、大和も大変な時に生まれちゃったわね」

「ああ。ま、もうすぐコロナも収束するだろ。寝る前になんか飲まない?もう飲んでも大丈夫なんでしょ」

「そうね。そろそろ、お付き合いできるかな」

「じゃ、おつまみ用意お願い! そのあとも、おつきあいできるのかな?」

「それは、まだダメ!」



2022年3月

コロナの勢いが衰えず、政府は、ついにマスク着用厳守の令を発した。外でマスク外すと罰金になるほか、飲食店の飲食は一人客のみに許可されるようになった。

「ただいま」

「おかえりなさい。宴会、意外に早く終わったのね。」

「いや、ひどかったよ、今日の宴会。久しぶりに飲み屋に行ったら、一人ひとり別々なんだよ。カウンターのボックスに向かって一人で飲まないといけないんだけど、目の前にモニターがあって、他のカウンターブースに座った友達がそのスクリーンに映ってるんだよ。わざわざみんなで飲み屋に行ってそれぞれ別々の場所でネット飲み会してるって感じ。すごく奇妙だった。」

「そうでしょ。もう飲み屋さんで会話しちゃいけないって法令だもの。マスク洗濯するから洗濯機入れといてね」

「マスクも面倒だよ。でも、つけないと罰金なんでしょ」

「そうよ。外で絶対外しちゃだめよ。罰金、結構高いみたいだから」

「もう、マスクうんざりだよ。」

「外して捕まってる人いっぱいいるみたいよ。何か食べるの?」

「いや、いっぱい食べてきたから大丈夫。お風呂入ってくるよ」

「私も入ろうかな」

「え、一緒に?」

「もう、大和ぐっすり寝ちゃったから」

「へへ。いいね」

「エッチなこと考えないでよ。温泉いけないから、温泉の湯のもと入れて温泉気分を味わいたいの」

「家族温泉か。それじゃ、白いやつがいいかな」

「うん。じゃ、先に入ってて。用意していくから」



2023年8月

アメリカと中国で生産されたワクチンに副作用があることが判明。疾病が無い人にはワクチンの効果があるものの、糖尿病予備軍や甲状腺ホルモンのバランスが悪い人にワクチンを接種すると、コロナの感染が強化され、コロナ菌自体も強くなり致死率が高くなるということがわかってきた。各国の政府は協議して対策を検討。世界共通でマスク着用の厳守を決めた。着用厳守をおこなうため、罰金に加え、

口を性器とみなすことが決定された。つまり、マスクをしないで外出した場合、公然わいせつ罪として逮捕され刑事罰を受けることになった。口が写っている出版物は、口のところが黒く塗られ、新しい出版物からは、口が写った写真や絵が消えていった。出版社は、この対応で大忙しになった。教育現場でも、さっそく、口は性器であり他人に見せてはいけないものだという新しい教育が義務化され急いで施行された。家庭でのマスク着用は義務付けられていないものの、子供への教育の一貫性を守るために、政府は、家庭でもマスク着用、口を見せないことを国民にお願いした。

「家でもマスクしなきゃいけないって、どういうことだ。そりゃ、無理だろ」

「駄目よ。あなたマスクしてね」

「家の中で家族と一緒だったらいいじゃん」

「駄目。今日保育園で、家できちんとマスクしてくださいって。子供が口は、見せちゃいけないものだって、小さい頃から教育しないといけないんだって。小学校にあがるまでに、口を見せないことを常識化しないとダメらしいわよ」

「そこまで厳格にしないといけないんだ」

「そうよ。だって、口が性器になっちゃったんだもん」

「もともと口も性器だったけどな」

「いやらしいこと言わないで!」

「あーあ、ひどい世の中だ」

「そういえば、食事も、口が見えないように、ばらばらの部屋でとるようにしないといけないってテレビで言ってた」

「じゃ、話しできないじゃん」

「別々に食事して、そのあとリビングに集まって家族のだんらんを

味わってくださいって」

「家も外の食堂と同じようにしないといけないんだ」

「だから、改築して、家の中に、個人個人の食事部屋を作るっていうのが流行ってるらしいわよ」

「大和はまだ一人で食べるの無理だろ」

「保育園は、3歳になればできるから、一人で部屋で食べさせはじめなさいって」

「日本政府も今回は厳しいね。スピードが遅くて、あいまいにしか決められない政府だけど、今回は、他の国からのプレッシャーがあったからかな。国際協調も怖いもんだ」

「これだけコロナが強くなると、自分達を守るためには、しょうがないのかもね。あ、今度の週末、アルバムの写真直してくれない?」

「直すって?」

「口のところに線入れるの」

「え、全部やるの?」

「そうよ。子供とか見たら大変でしょ。ビデオも編集お願い」

「編集たって、ほとんど顔うつしてるから、カットしたら、ほとんど

なくなっちゃうよ」

「しょうがないわよ。保育園からそういう指示なんだもん」

「あーあ、せっかく撮ったビデオなくなっちゃうのか」

「そろそろ寝ようかしら」

「寝る時はマスク外してもいいんだよね」

「二人だけの時は、いいんじゃない」

「それは、ちょっと刺激的だね。規制も悪くないのかも」

「いやらしい顔してないで早く寝なさいよ!」



2028年4月

コロナは年を追うごとに進化をとげ、簡単な接触でもすぐに感染する強い感染力を持つようになってきた。感染者が増え続ける一方、死者の割合も増えてきた。政府は、新しいコロナ菌に対応するために、体への接触の厳禁と手袋の常時着用法案が可決された。

「あなた、大和のマスクまた注文しておいて」

「わかった。すぐなくなっちゃうね」

「うん。今度は、2年3組 新海大和ってプリント入れておいて。

もう一つは、水色でいいかな」

「小学生も大変だよな。マスク2枚かけて歩かなきゃいけないんだから」

「学校行ったら1枚にできるから、そんなに大変じゃないんじゃないかな。水色の方は、外で他の人に名前とか見られないために名前マスクの上に羽織るだけだから」

「あと、食事チューブも買っておいて。あなたの食べたいものでいいから でも辛くないのにしてね」

「チューブ飯、味気ないよな」

「でも、チューブご飯の時は、みんなで一緒にご飯食べれるからいいんじゃない? 今、学校の給食は全部これよ。マスクの横にチューブを入れて吸うからマスクはずさなくてすんで、みんな一緒に給食を食べれるわけだから。」

「今の子供が我々の給食見たらびっくりするだろうね」

「今日は、普通のご飯別々の部屋で食べる? それともチューブで一緒に食べる?」

「大和は勉強中? 最近あまり話してないから今日はチューブにしようか」

「はーい。主婦が楽っていうメリットもあるわね。あ、忘れた。

手袋も買っておいて。もうなくなってきたから。少し高いけど滑らないのがいいな」

「手袋しなくても、罰金なんだよね」

「手袋しないと逮捕よ。人とちょっと触れた時が罰金。手をつないでたりすると逮捕だって」

「手袋しててもダメなんだっけ?」

「駄目よ。外出た時、洋服とか触れるの気を付けてよ」

「もう外には出たくないね。大和とか小学生は大変だろうな」

「先生も、相当気をつけてるみたいだし、その辺の教育は徹底的にされてるみたい。だから、一緒に外でると怖いけど、案外、最近の子供は人の間すり抜けるのうまいわよ」

「そういえば、日曜日、母校の野球の試合があるんだけど、見に行ってもいいかな」

「いいわよ」

「一緒に行く?」

「外は気をつかうから、家にいるわ。でも、人に触れないように気をつけてね」

「吹奏楽がなくなっちゃったから応援も地味でちょっと寂しいんだけどね」

「マスクして吹奏楽ってできないの?」

「どうしても、ちょっと口が見えちゃうみたいで、あぶないから高校は全面禁止なんだって」

「それは、さみしいわね。確かに、テレビでクラッシック音楽が変わってきたって言ってた」

「なんか、君の顔も最近見てないな」

「毎日見てるじゃない」

「毎日マスク越しだもん。寝るときもマスクしてるし。今日はずして寝ようか」

「いやよ。昼間っから何言ってるの!」



2038年 2月

一年ごとに強くなるコロナは、徐々にその体を小さくしていった。結果、コロナの粒子が簡単にマスクを通して入ってくるようになり、マスクを改良し、コロナが進化し、またマスクを改良し、というようなイタチごっこが、この数年続いている。医療トップによる賢者会議からの提案を受け、政府は布製、紙製マスクの使用を禁止するとともに、口からの食事摂取を全面的に禁止した。

「ご飯食べ終わった?」

「うん。食べてきた」

「最後の晩餐だね」

「大げさね。大和たちは、中学生の時からずっと食べてないわよ。あの子たちは、もともと、チューブ食中心だったからあまり違和感ないみたい」

「明日、病院何時?」

「10時から二人予約しておいたわよ」

「嫌だな」

「簡単な手術みたいよ。お腹の横に穴あけてチューブ入れられるようにするだけだから。体にベルト巻き付けて、一日2回栄養カートリッジを交換するみたい。」

「君の声、こもってるから、もうちょっと調整できる?」

「そうなの、この電気マスク音悪いのよ。装着感も良くないし。今度新しいの買っていい?」

「そうだね。もう少し軽いものができたみたいだし。声も、もっと自然な声がでるようだよ」

「そうね。ちょっと私の声と違うでしょ」

「うん。もう君の自然な声忘れちゃったよ」

「ずっと、電気通した声だもんね」

「今日、マスク外して寝ようか 久しぶりに自然の声も聴きたいし」

「マスクはずしても、寝たら声きこえないじゃない」

「あれの時大きな声だしてたじゃん」

「やだ。私たちもう何歳だと思ってるの!」



2058年 4月

<大和さん、お父さん、今日いっちゃうのよね>

美恵の胸のところにあるモニターメッセージボードから字が浮かび上がった。

<うん。今日、施設に送られちゃう>

大和のボードからも、字が現れてくる。

二人ともマスクはしていない。

背中にエラ呼吸をするダウンジャケットを装備している。

<昨日、会った時元気そうだったけど、結構落ち込んでると思うよ>

<そうね、大した病気じゃないんでしょ>

<うん。昔なら問題なかったけど、今は、政府の医療崩壊防止法案ができて、一般の病床数が圧迫されないように60歳以上で病気になったら自動的に施設に送られるようになっちゃったからね>

<施設には会いにいけるの?>

<ダメだよ。もう会えない。噂によると、施設入ると注射打って苦しまないように殺しちゃう施設みたいだもん>

<ひどい。。。お母さんも行くことにしたみたいね>

<うん。夫婦は、片方が元気でも、一緒に行くか、残るか選べるからね。お袋は、親父と一緒に行くことに決めたみたい>

<悲しいわね。二人いつも一緒だったもんね>

口の無い大和の顔が悲しみにゆがむ。

思わず、美恵が大和を抱きしめる。

2057年になって、技術の進化を確認した政府では、ついに人間から口の機能を取り去る法案が決議、可決された。それにともない、60歳以下の人間は、エラ呼吸器と脳の刺激によるモニター表示装置の装着、および、口をなくす手術を無償で受けることが義務づけられた。

「貴子、行こうか」

「ええ」

「昨日、大和に会えてよかったね」

「美恵さんと仲良くやってるみたいで安心したわ」

「あいつらは、キスできないんだね」

「ん? 突然どうしたの」

「なんだか、かわいそうだと思って」

「そうね。時代が急に変わっちゃったもんね」

「貴子、キスしよ」

「え?」

「最後のキス。目をつぶって」

「はい」

「今までありがとう」




頭がガンガンして、目が覚めた。昨日飲みすぎたようだ。

あたりは、まだ暗い。横に寝ている貴子を揺り起こした。

「貴子、、」

「何、、まだ朝になってないでしょ。どうしたの、え、、、」

僕は、貴子を抱きしめて長い長いキスをした。

この瞬間に生きている幸せを感じた。

僕が今どんな夢を見たのか、この瞬間が、どんなに幸せなのか貴子は知らない。

永遠とキスをしていたいと思った。


おわり



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