家のコロナ騒ぎも、やっとおさまりました。今回体験してはじめてわかりましたが、行政は難しいですね。どうしても、政府の指示に基づいて動くので、すべてマニュアル通りにならざるを得ないようで、とっても違和感がありました。行政の人達も一生懸命ですし、誰が悪いとい言えないところが、また、この問題の難しさだと感じました。例えば、PCR検査が陽性となると保健所から病人当人へ電話がきますが、最初に、延命にしますか、延命しませんか?とダイレクトな質問があるようです。つまり、すぐに入れないけど待って人工心肺とかの設備がある病院に行きますか、それとも、重症化した場合死ぬかもしれないけど、すぐ入れる病院にしますかと聞かれたようです。また、あとから、家族にも電話が来ますが、病人とのこの時の電話内容は、個人情報の問題から保健所から家族には伝えられないので、病人から直接聞いてほしいということでした。病人熱だしてるし、あまり近寄って話したくないし、個人情報のために、リスクを増やすということは考えていない模様。結局、延命を選んだため、すぐには病院に入れず、一週間待って延命できる病院へ行きましたが、もう治りかけなので、数日でいただけで帰ってきました。今は、治ったことを確認するためにPCR検査をしてはいけないようで、この段階でPCR検査は受けられません。日数がたっているので、もう普通の生活をしてよいということでした。一方、濃厚接触者である私は、まだ14日たっていないから、家からなるべくでないようにとのこと。病人のほうが早く社会復帰できるという不思議な状況は疑問を感じました。また、集団発生した近くの施設が施設からの感染者にPCR検査ができるように区と準備しましたが、PCR検査ができる近所の病院では駄目で、区役所で準備をしているので区役所まで来るようにとのこと。区役所は遠いですし、近くの病院がやってあげると言っているので交渉しましたが、駄目だということ。管理、アレンジしているので、しょうがないのかなとも思いながら、融通のきかない状況に呆れてしまいました。日本の企業でも同様の問題をたくさん見てきたので、これだとやっぱり日本は衰退しちゃうんじゃないかな思いました。 すみません、長くなっちゃいましたね。。
愛しき人へ 第二章です。第一章の終わりから8年たったところから始まります。音楽は、今日はクラッシックです。ドビュッシーのアラベスク一番がいいかなと思います。
波の音が聞こえる。
サングラスを通して真夏の暑い太陽が照り続けている。心地よい疲れに身をまかせ少し眠ってしまった。こんな気分は何年振りだろう。目の前には海があり そこには使い古されたボードが、砂に体を預けている。ワックスの、ほんのり甘い香りが鼻先を伝って、オフショアの風に流されていく。砂のついた身体を持ち上げて太陽から顔をそらすと、あんなに激しかった波のうねりは、もうおさまって美しく青い水の帯に変わっている。
「起きた?」 と後ろから声がしてミイナが近づいてきた。コークの缶を両手に持ち、駆け寄ってくる。冷えたコークがボーッとしている意識を、現実へ戻してくれた。ミイナの白い水着は、彼女の小麦色の肌に美しくまとわれ、絶妙のコントラストとなって周りの視線を集めている。
「疲れたんでしょう」 コークの缶を開けミイナは言った。
先週、突然に、昔の仲間に誘われるまま、埃をかぶっていたボードを引っ張り出して、この懐かしい海にやってきた。イクミが日本に戻ってから3年目の夏。
8年ぶりのライディング。パドリングをして沖に出ることが、すでに苦痛になっていた。最初の波では、ボードのトップを引っ掛けて真っ青な波に巻かれ、海底の砂にたたきつけられたりもしたが、徐々に体が昔を思い出して、最後のライディングでは早い動きでチューブを捉えて、うまくすり抜けることができた。岸に向かうと周りの若者達が熱い視線を向けていた。彼らの体は明らかに若々しく、すでにイクミとは違う世代に生きる者達だった。
そしてその晩、ミイナに出会った。
あの晩は、仲間とひとしきり飲んだあと、少し酔って浜へ散歩にでかけた。
誰もいない夜中の海辺は静まり、足元で砂のきしむ音と、波の音だけが聞こえた。月の光が波に反射して地平線をくっきりと映し出していた。
浜辺に降りる石の階段まで来たところで、ポニーテールの少女が月の光に浮かびあがって見えた。少女は膝を抱えて、一人月明りの海をじっと見つめていた。近づくにつれ、月の光に照らされる彼女の横顔が見えてくる。美しい少女だった。ただ、その美しい顔は、表情を失っているように思えた。美しかったからか、表情を失って見えたからか、自分が酔っていたかわからない。だけど、なぜだか声をかけるようにと、心の命令があったように記憶している。
「一人?」女の子に声なんかかけたこと無いのに、あの時は、躊躇なくこう聞いていた。
少女は、表情の無い顔を静かに傾けて、少しの時間驚いた様子もなく、何も言わず僕をじっと見つめていた。そのまま、すごく長い時間がたったような気がする。
大きな波が来たみたいで、砂浜が波に強く叩きつけられる音がした。それとともに彼女の顔に表情が現れた。表情の無い顔が一瞬で美しい笑顔に変わった。
「友達と一緒」少女の声はやや鼻にかかった優しいものだった。
「友達は?」
「もう寝ちゃった」
「そうか。もう夜中だもんね。隣に座っていい?」
「うん」そう言って、少女はまた海をみつめた。
「ずっと、ひとりでいたの?」
「うん」
「いつから?」
「ずっと。夜の海と星を見るのが好きなの」
「ここ星きれいだもんね」
乾いた砂に手をのせ体を傾けて星を眺めた。波の音に囲まれたきれいな夜空だった。
じっと星をみつめていたまま、少女が独り言のように声をだした。
「夏の大三角形ってどれだっけ? さっきから思い出せなくて」
僕は、手をすこし伸ばして空をさした。
「あの上のほうで、白く強く光ってる星わかる? あれが、こと座のベガで、そこから左上に光っているのがあるでしょ、あれが、はくちょう座のデネブ、デネブからずっと下の方に行くとちょっと光ってるの見える? あれが、わし座のアルタイル。あの3つをつなぐのが大三角形」
「こと、と はくちょうと わしか、、、あの二つが、おりひめと、ひこぼしなんだっけ?」
「そう」
「今年は、二人会えたのかな」
「七夕は天気よかったから会えたんじゃない」
「良かった」
「一年に一度か、、7月7日だけは晴れがいいな」
「昔の人もこうやって星を見て話してたのよね。もしかしたら、この場所で同じように海を見ながら話していたのかもしれない」
「そうだね。空も海も何も変わってないだろうし」
南伊豆の多々戸浜は、夏に、特別な混雑を見せる隣の白浜海岸同様、白い砂を敷き詰めた美しいビーチで、イクミは学生の頃から夏になるたびに波乗りに来ていた。 白浜海岸とは違い、ビーチとしての品が保たれていることが気に入っている。 その美しい浜を見渡す石のステップの上でミイナと出逢った。そして夏の暑い夜、二人で長い間、星を見ていた。たくさんの星の重みで天空がたるみ、空と二人の距離が近くになり、少し息苦しいくらいだった。
「ひとりで来てるんですか?」
「寝ちゃった」
「え?」
「君と同じ。友達はもう寝ちゃった」
「ふふ、嘘つき」
「え、何で?」
「昼間、彼女とビーチにいたでしょ。波乗りしてるの見たもの」
「え? 彼女?」
「彼女、可愛い子だった。こんな時間に彼女を置いて散歩? しかも女の子に声かけている。いけないんだ」
「ああ、あれ僕の彼女じゃないよ。一緒に来た友達の彼女だよ」
「そうなの。なんか、あなたと仲良さそうだったから。で、夜中の2時にナンパに出て来たってわけか」
「あまり声かけたりしないんだけどね。君を見たら声かけたくなっちゃった。 なんか背中が語ってたんだもん」
「なーんだ、可愛いから、とか言ってくれるかと思った。」 ふっと笑う彼女は愛らしかった。
「あ、流れ星」
「本当だ。流れ星見るの久しぶりだな。お願い事した?」
「もちろん」
「何?」
「あなたは?」
「しそこねた」
「あーあ、もったいない。じゃ駄目かな」
「ん、何が?」
「またあなたと会いたいって、お願いした。でも、あなたのせいで、もう会えないかもね」
「どこから来たの?」
「東京」
「僕も東京。じゃあ、大丈夫だ。きっとまた会える」
「会えるかな」
「うん。会えるよ」
「じゃあ、来週、またここに連れてきてくれる?」突然の提案に驚いた。
「えっ、いいけど誰と?」
「二人は? 駄目?」
「いや、いいけど、、、君は大丈夫なの?」
「何が?」
「いや、別に何っていうことはないけど、会ったばかりだし」
少女は、イクミをみつめると、イクミを抱きしめ、突然キスをしてきた。
シャンプーのいい匂いがした。
会話がとぎれ、広い空間の中、波の音だけが聴こえる。何度、波が砂浜をうちつけただろう。時間をかけた濃厚なキスだった。大胆な少女にイクミは呆然としてしまった。
「出逢いのしるし。これで、もう会ったばっかじゃないでしょ。私は大丈夫よ」
「ずいぶん大胆だね。わかった。来週来よう。連絡先教えて」
「うん」
「名前は? なんていう名前?」
「ミイナ。工藤ミイナ」
「珍しい名前だね」
「すごく、単純な名前」
「そうかな。かわいい名前だと思う」
「3月17日生まれだから、ミイナってつけたみたい」
「何歳くらい?」
「内緒」
「内緒?」
「そう。まだ教えてあげなーい」そういってミイナは愛くるしく笑った。
そして、一週間がたち、ミーナとここに居る。白い水着を着たミーナがイクミにしなだれかかって、まるで長く一緒にいる仲睦まじい恋人同士のようだった。そして、その晩二人は結ばれた。
実際、この時から恋人という関係が始まったのかもしれない。あるいは、この時からずっと友達という関係が続いているのかもしれない。 ミーナと知り合って以来、その曖昧な境界線が、ずっとイクミの心を揺り動かすことになる。イクミにはミーナがわからない存在だった。イクミは20代で大きな失意を覚えて 以来、人を深く愛することを避け、絶妙なバランス感覚で恋愛と友達の隙間に身を潜めていた。すべての恋愛は、終わることを前提に始まり、始まっては必ず終わるものだと思うようにしていた。その隙間にいれば、傷つかないでいられた。ただ、ミイナと出逢ったことで、イクミの心は、昔の熱い自分に戻っていくことへの警告を発していた。
夏に始まったミイナとの関係は、秋から冬へと季節を変えていた。
つづく
患者さん向け大きな字の読み物です。ご活用ください。
こちらのほうもご活用ください。
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