最近メダカを飼い始め始めました。餌をあげるくらいの時間になると催促をしに集まってきたりして、案外かわいいものです。机の上に水槽を置いたので、作業しながら、ぼーっと眺めて癒されています。 メダカにも性格があるようで、のんびり悠々としてるものや、ちょこちょこせわしないもの、食いしん坊、静かに孤独を楽しむタイプ、などなど、それぞれ性格も生活パターンも違います。ただ、飼い始めて水にも慣れてくると、一匹のメダカが執拗に追いかけられて、いじめにあっているのを発見。追いかけられているメダカは尾っぽがちょっと短くて弱々しいメダカで、好戦的な一匹のメダカが追い回すのです。遊んでいるのかもしれませんが、尾っぽの短いメダカが必死に逃げる姿は、やっぱり、嫌がっているように思われます。ネットで調べてみたら、やっぱり、いじめで、自然の池など大きな場所では、起きないけど、水槽のような狭い空間では、良く発生し、場合によっては相手が死ぬまでいじめるそうです。メダカの世界も厳しいものです。対策として、ネットに書かれているように水草を増やして メダカの数を増やしたら、改善しました。数が多いといじめは減るけど、少人数のグループでは いじめが発生する。人間も魚も一緒なんだなと思いました。
さて、今日は、愛しき人へ 6です。
音楽は、Coccoの「ポロメリア」。この音楽の出だしがすごく好きです。歌詞が内容にマッチしているわけではありませんが、小説の最後のところで、この曲がかかり、眠れないイクミがベッドの上で左右に寝返りをうつところを上から見ているっていう映像が頭に浮かびます。
あと、今回も、中国語の曲を2曲。台湾のグループ五月天(Wu Yue Tian。英語名はMayday)の「歩歩(Bu Bu)」と曲婉婷 (Qu Wan Ting)の「我的歌声里 (You Exist In My Song) 」をご紹介します。 小説の最後の部分、この曲でもいいかもしれません。最近は特に中国嫌いの人が多いと思いますが、曲が好きなる、映画が好きになるとかで、少しでも他の国に興味を向けて、それぞれの国とのバリアがなくなればいいなと思います。
それでは、音楽、小説ともお楽しみください。それぞれの音楽で、小説に、それぞれ、どんな映像を加えられるか思い浮かべてみるのも楽しいかなと思います。
巻末の字の大きな読み物も、ご老人向けにご活用ください。
「もしもし、モリオ? 久しぶり」
「おお、元気? ずいぶん遅くまで働いているんだなあ」
「そっちこそ、ずいぶん遅い時間に電話をかけてきて。どこかで飲んでるのか?」
「いや、家からだよ。早くしておきたい話しがあって。まだ会社なの?」
「ああ、今やっと終わったとこだよ。終わったっていってもまだ完成した訳じゃなくて、やっとひと休みってとこだけどね」
「社長自らこんな時間までやるのか。大変だね」
「社長っていったって名目上で、実際は、あくまでもディレクター兼エディターだからね。なんでもやんなきゃならないから結構忙しいんだよ」
「この前、局の連中と飲んだけど、お前の会社のこと褒めてたぞ。安心して仕事を頼めるプロダクションだって。お前みたいに大学で経済とか経営とかやってたやつが、その仕事良くつとまってるよな」
「まあ、好きで始めたわけだからね」
「文化、芸術には頑固だったもんな。それが根っこにあるのかな」
「自分でも不思議だけど、まあ、やりたいと思ってることをやってるから幸せだよ。ところで、早くしておきたい話しって何なんだい?」
「ああ、実はいい話しがあって。お前に仕事の依頼をしたいんだ」
「小説家のおまえが、なんでプロダクションに仕事の依頼があるんだ? Youtubeでも始めるの?」
「いや、おれの小説が映画化されることになったんだよ」
「え、そうなんだ。それは、めでたいね。おめでとう。賞とったあとは、映画化か。いい話しは、広がっていくんだね」
「うん。急な話しだったんで、びっくりしてる。最近は、本がでると、そうやって、権利を確保しようっていう需要が多いんじゃないかな。で、おまえに、映画を作ってもらいたいんだ。監督をお願いしたいと思ってる」
「え? そりゃ、無理だろ。経験無いし」
「CMや音楽のプロモーションビデオも映画と一緒だろ」
「全然違うよ。映画は別物だよ。プロデューサーは決まってるの?」
「ああ、決まってるよ。制作委員会もできて、スポンサーも集まってきてる」
「それだったら、プロデューサーが許さないだろ。まったく名もない監督を使おうっていうプロデューサーはいないからね」
「大丈夫。もう了解もらってるから。おれが権利を持ってるコンテンツだぞ。今のところは、おれが一番偉いことになってるからね」
「おい、権利をたてに、無理やり認めさせたんじゃないだろうな」
「いや、今のは冗談。プロデューサーに、おまえを監督でやれないか聞いてみたら即OKだったよ。権利をたてにじゃないよ。お前のことどう思う?って感じで聞いてみたんだから。そしたら、プロデューサーは、是非って感じだったよ。お前の作品好きみたいなんだ。それで了解もらって電話したっていうわけ。詳しい話しをしたいから、これから出てこられるか?」
「今日は勘弁してくれ。もう倒れそうに眠いんだ。明日でいいかな?」
「明日だったら、夜八時はどうだ?」
「その頃だったら、一区切りついてると思うから大丈夫」
「OK。じゃ、八時に乃木坂のTABACにしよう」
「了解。八時TABACね」
「明日は久々に夜通し飲もう。他にもいろいろと話したいことあるし。また相談にのってくれよ」
「また、女の子のことだろ」
「へへ、まあな」
「おまえも、本当に変わらないな。結婚したいって言ってるわりには遊びまわってばかりで。しょうがない奴だな」
「結婚は相手があって初めてできることだぞ。その相手に、まだ出逢わないんだよ。しょうがないよ。最初は期待して付き合うけど、いつも期待はずれなんだよ。誰か紹介してくれよ」
「いやだね。おまえに紹介すると、するだけしてポイだもん。女性がかわいそうだよ。その病気が治ったら紹介してあげるよ」
「結構まじめに付き合いはじめるんだけどな。別に悪気があって別れてしまうんじゃないけどね」
「それは悪気があろうが、なかろうが同じこと。結果的には女性がかわいそうだよ。おまえの場合、別れることに躊躇が全くないし、別れることの悲しみがないんだもん。ある面、その性格羨ましいけどね」
「おうおう、今日は一段と厳しいねぇ。わかったよ、反省しますよ。ところで、お前の方はどうなんだ?」
「ああ、ぼちぼちって感じかな。さあ寝るぞ。明日TABACで待ってるよ。遅れるなよ」
「あっ、切る前に一つだけ確認させてくれ」
「え?何?」
「それで、監督は、引き受けてくれるか?」
「詳細を聞く必要あるけど、プロデューサーがOKならば、やってみたいと思ってる。映画を撮ることは夢だったし、それにお前の作品だったらなおさらだ。でも、やっぱり、経験ない俺にまかせるのは心配か?」
「いや、そんなことない。そうじゃないんだ。そこは、全然心配してない」
「そこは心配してないって、他に何か問題があるのか?」
「いや、問題ってほどのことでもないんだけど、、」
「おい、はっきり言ってくれよ。変な条件が付いているのか?」
「いや、一般的には変な条件じゃない」
「一般的には?」
「うん。いい条件なんだ。ただ、女優が、、」
「女優?」
「ああ、プロデューサーが考えている主役の女優が香坂ミキネなんだ」
「香坂ミキネ、、、」
「おれは詳しいことは知らないけど、昔、おまえ彼女と付き合っていたろ。そして、ずっと引きずっている」
「いや、もう関係ない。引きずってなんかいないよ」
「でも、大丈夫か? 彼女でも」
「ああ、仕事は仕事だ。それに彼女とはおまえが考えるほど深い関係だったわけじゃないよ」
「そうか。良かった。安心したよ」
「それはそうとして 最近の映画は、監督が決まる前に配役を決めちゃうのか?」
「おれも詳しくは、わからないけど、今回はテレビ局がスポンサーになってる関係で、配役決めにも局の力が働いたみたいだよ。でもプロデューサーは、脚本に関しては、監督と話しながら詰めていきたいと言っている。このプロデューサーだったら、お前とうまくやれそうだと思うよ。どうだ、受けてくれるよな」
「わかった。いいチャンスを持ってきてくれてありがとう。 やらせてくれ。それじゃ詳しい事は、明日ゆっくり話そう。おやすみ」
「あー、安心した。今日電話して良かったよ。おやすみ。また明日」
イクミは電話を切ってタバコに火をつけた。
‘香坂ミキネ’。モリオが言ったこの名前を聞いてイクミは、なんとも表現しがたい胸の重さを覚えていた。8年前のあのホテルから封印していたこの名前、日がたつにつれて記憶から遠ざけることに成功していた。実際、何年たっても忘れられずにいた。ハリウッドに行って仕事に没頭した。仕事をすれば、忘れられると自分に言い聞かせながらも、制作する映像の中に彼女を感じては頭の中で消し去る作業をおこなっていた。
それが、不思議なことに、ミイナとの出逢いによって、その重いものが徐々に薄くなっていくような感じがした。心の中でミキネの場所を消し去るように、奔放なミイナが心の中を縦横無尽に歩き、心のひだを刺激するようになってきた。
ミイナに出逢ってからは、多感になり、弱々しい少年時代の心に戻ってしまったように感じるようになった。一方で、体や年は、どうしたってその少年の時代には戻れず、心と体のアンバランスがイクミの気持ちを妙に落ち着きのないものにしていた。ミイナとのジェネレーションギャップを感じることで、ミキネとの傷を覆い隠すように新しい傷を重ねていた。
実際、ミイナのことは、良くわからない。年も、何をしているのかも、どこに住んでいるのかも、何も知らされていない。今、二人でいるその瞬間が大事、付随する情報なんて関係ないでしょ、といって、いつもはぐらかされる。連絡もついたり、つかなかったり。たいがい、ミイナからの連絡があって、会うことになる。こちらからの連絡には、ほとんど返事が来ない。そんなことが、イクミを不安にさせながらも、少しずつ加速しながら、ミイナのことが気になるようになってきていた。ミイナのことを愛しはじめてしまったんだと思う。
だから、何も気にすることはなく、映画をとれるはずだ。
イクミは部屋の大きな窓から夜の暗闇の中で大きく揺らぐ木々を眺めた。外は風が強いらしい。木々の間から見える街灯のともす白い光が、いくつにも割れ、あやしくゆらめいていた。
もう、ミキネを愛してはいないのだろうか? そしてミイナを愛しているのだろうか。ミイナは、どう思っているのだろう。彼女がささやく’愛してる’という言葉は、意味を持たない空気のようなものなのだろうか。それに、仕事のことも。映画を完成させることはできるだろうか。映画を完成したあとに待っている人生は、どのようなものなのだろうか。イクミは静寂の中にあって、いくつもの、そして答えることのできない質問を自らに尋ねた。
窓ガラスに まばらに雨が飛び散って、風がさらに激しくなってきている。ライトが灯る静かな部屋と暗く狂ったように吹き荒れる嵐の間には、たった一枚の窓ガラスがあるだけだった。イクミの目には、その窓ガラスに少しずつひびが入り、突然割れて外の暗闇の中に自分が消えていく映像が浮かんだ。なんでそんな映像が浮かんだのかわからない。疲れのせいだろうか、あるいは窓の外の深い暗闇のせいだろうか。
この瞬間、イクミの心にも何本かのひびが入りはじめていたが、イクミ自身はこの内面の変化にあまり気づいていなかった。ただ、孤独と不安を感じることが、日々多くなっていった。
その晩、イクミは朝が来るまで寝付けなかった。
携帯の画面を見ても、ミーナからの連絡はなかった。
愛しい人へ 7 へつづく
介護されている老人の方、入院中の老人の方に字を読む機会を増やしたいと思っています。大きな字の読み物をお使いください。
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